福岡地方裁判所 昭和29年(行)23号 判決 1956年7月05日
原告 株式会社籐工社
被告 博多税務署長
訴訟代理人 今井文雄 外五名
主文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一、原告訴訟代理人は、「被告が原告に対してなした昭和二十二年事業年度法人税更正決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因事実として次の通り述べた。
原告は家具販売を営業とする株式会社であり、現在本社を肩書住居地に置いているが、昭和二十二、同二十三年度は本社を福岡市西堅粕六百八十九番地に、営業所を佐賀市唐人町十七番地に置いていた。ところで原告は昭和二十二年度は福岡市の本社では営業をしないで、佐賀営業所で専ら営業し、被告に昭和二十二年度法人税につき所得額三百二十六円、税額百十四円十銭、資本五万円、税額二百十一円九十銭、税額合計三百二十六円として確定申告をなし納税した。その後昭和二十四年四月になつて原告は本社を福岡市所在地より佐賀市に移したが、原告が昭和二十七年営業所を福岡市住吉上横田町に新設した直後、博多税務署員が同営業所前を通りかゝり、原告に対し昭和二十二、同二十三年度法人税の滞納があると告げられたので、原告は両年度法人税に既に確定申告により納税ずみであるところから、不審に思い度々博多税務所に赴いて事情を聞いたが要領を得ないので、原告に対する微収事務を引継いだ原告の本社所在地を管轄する佐賀税務署について問合せたところ、被告に於て更正決定をなしていることが判明したので、昭和二十二年度につき昭和二十九年二月十九日佐賀税務署長に対し再調査の請求をしたのであるが、之に対する決定は未だに為されていない。以上のような事情で、右更正決定は原告に対して正式に送達せずその内容を告知されていないのであるから違法であるのみならず被告の為した右更正決定は原告の業務でない軽車輌製造による所得をも原告の所得と認定した違法がある。即ち昭和二十一年暮、原告が、訴外西日本軽車輌株式会社より、同会社が訴外木下薬局より賃借営業中の建物を軽借して営業すべく、同建物に原告会社の看板を掲げたが、所有者である右木下薬局がこれが転貸を承諾しなかつたため、原告会社は看板を放置したまま同所で何等営業をしなかつたのである。被告の認定は同所で西日本軽車輌製造をなしていたのを原告の営業と誤認した結果に基くものであり、前記更正決定は原告の正当な所得に対してなされていない違法があるので、被告のなした前記更正決定の取消を求めるため本訴に及んだ。
二、被告指定代理人は、本案前の答弁として、「原告の訴を却下する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、その理由として、原告の昭和二十二年度(昭和二十二年四月一日より昭和二十三年三月三十一日迄の事業年度)における法人税につき、被告は昭和二十四年一月三十日更正決定をなし、翌二月九日、同月七日付をもつて右処分のあつた旨の通知書を原告にあて普通郵便により発送し、その頃原告の本店に送達された。仮りに右の通知書が何等かの事情で原告に送達されなかつたとしても、右更正決定のあつた事実は、昭和二十七年十一月一日原告会社取締役木原秀行に対し、更に同月十五日同人及び会社を代表する取締役吉田喜一郎の両名に対し、博多税務署に於て係官からそれぞれ口答をもつてこれを告知している。其の後原告は昭和二十九年二月六日にいたり始めて右更正決定に対し再調査の請求を佐賀税務署長に為したが、既に更正決定の通知後五年近くを経過し法定の期間経過後であつたので、同署長は同月も二十五日再調査の請求は期間経過後であるから棄却(却下の誤記)する旨の決定をなし同日その旨を原告に通知した。以上の通り本訴は適法な再調査請求を経ずに提起されたもの故、不適法な訴として却下さるべきである。」と述べ、
本案につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁並びに主張として、「原告がその主張のように所在地で営業を営んでいること、昭和二十二年事業年度法人税につき原告主張のような内容の確定申告がなされたこと、(右申告は昭和二十三年六月三日なされたものである)原告が昭和二十四年本店を佐賀市に移したこと(但し移転は昭和二十四年六月二十六日である)被告が更正決定をしたこと、被告が原告に対する懲収事務を佐賀税務署に引継いだこと、原告主張の日に原告が昭和二十二年事業年度法人税につき佐賀税務署長に再調査の請求をしたことは何れも認めるが、その余の主張事項はこれを争う。」と述べた。
三、原告訴訟代理人は、被告の本案前の抗弁に対し、「原告は前述のように昭和二十二年事業年度法人税につき更正決定の通知をうけていないため法定の期間内に再調査の請求ができなかつたのであるから、右期間経過を理由に再調査の請求を却下することはそれ自体不当である。又原告は昭和二十九年二月十九日付で昭和二十二年事業年度法人税につき再調査請求書を被告に提出したのであるが、その後六カ月を経過しても被告から何等決定の通知をうけていないから審査の決定を経ないで本訴を提起しうるものである。」と述べた。
四、証拠関係として、原告訴訟代理人は甲第一号証の一、二、同第三号証の一乃至三、同第二、同第四号証を提出し、証人木原秀行の証言、原告会社代表者吉田喜一郎本人訊問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。
被告指定代理人は、乙第一、第二、第四号証の各一、二・同第三号証、同第五乃至第九号証を提出し、証人力丸金亮、同喜多島真の各証言を援用し、甲号各証を認めた。
理由
原告が家具の販売を営業とする会社であること、昭和二十二年事業年度法人税につき、原告が被告に対してその主張のような内容の確定申告をなしたこと、昭和二十四年六月二十六日原告が本店を福岡市所在地より佐賀市に移したこと、原告が昭和二十九年二月六日佐賀税務署長に再調査の請求をなしたこと、本訴請求が所轄国税局長に対する審査の手続を経ていないこと、は何れも当事者間に争がない。
そこで、先ず本訴が適法であるかどうかを判断するに、成立に争のない乙第一号証の二、同第二号証の二、同第六号証並びに証人力丸金亮の証言を合せ考えると、昭和二十四年一月三十一日付で、被告は原告の該年度法人税について更正決定をなし、昭和二十四年二月九日付で普通郵便により更正決定の通知を発した事実が認められるから、前記更正決定は、特に事故等が生ずる如き事由がない限り、通常郵便物の送付に要する期間の経過後に於て原告に送達されたものと推認することができ、この認定に反する証人木原秀行の証言部分、原告会社代表者本人訊問の結果部分はこれを信用し難く、他に前記認定を左右するほどの証拠は存しない。又、原告は再調査請求の日後六カ月を経過するも被告より再調査決定の通知がないので、審査の決定を経ないで本訴を提記しうると主張するのであるが、成立に争のない乙第九号証によると、原告主張の再調査請求に対し、佐賀税務署長は昭和二十九年二月二十五日付で再調査請求が期限後であることを理由に之を却下する旨の決定をなし同日原告に対して其の旨の通知書が発せられたことが認められるから、右書面は数日後には原告に到達したものと認められ、この認定に反する原告会社代表者本人訊問の結果部分は信用し難く、他にこの認定を左右するほどの証拠も存しない。
然らば、原告に於て右再調査決定に異議あるときはその通知を受けたる日より一カ月内に所轄国税局長に審査請求を為すべく之を為すことなく提起された本訴は結局不適法といわねばならない。
よつて、本訴はこれを不適法として却下することゝし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 小野謙次郎 大江健次郎 奥輝雄)